デザインコンペ「LIFE DESIGN信州2008」選考結果

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信州には長い歴史と文化、豊かな自然に育まれてきた多くの伝統工芸があります。「伝統工芸」とは、日常生活の中で古くから使われてきたものであり、今もなお伝統的な原材料や、技術・技法により手工業的に製造されている工芸品です。
この素晴らしい信州の伝統工芸をさらに発展させ、次世代に伝えていくためには、クリエーターの新しいアイディアが必要です。そこで信州の伝統工芸を広くPRするデザインや、技術・技法を利用した新製品のデザインなどを募集しました。


グランプリ/デザインPR部門賞「内山和紙のポスター」

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相澤 徳行(相澤デザイン室)

グラフィックデザイナーとして「紙」に接する機会が多いため、「内山紙」に関心が強く今回テーマに選ばせていただきました。内山紙は長野県の中でも雪深い地域で作られています。「紙」の白さと「雪」の白さをリンク出来ないかと調べていたところ、内山紙には「雪晒(さら)し」という行程があることを知りました。「雪晒し」とは、紙をより白く・強くするために原料である「コウゾ」を雪に晒す作業です。これぞ雪国ならではの知恵と自然の恩恵。紙と雪の白さが無理なくリンクすると思いました。そして、とかく目立つこと一辺倒になりがちなグラフィック表現の中で、内山紙のように静かでも確かな存在感を目指して、色の無い質感に訴えるポスターを作りました。審査いただいた先生の「何も大声で叫ぶだけが表現じゃない。やさしく囁くような表現だね。」という言葉が嬉しかったです。ありがとうございました。


デザイン提案部門賞「MiNo」

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大塚 亮(東急設計コンサルタント)

塩尻市伝統の曲物は、薄く、木曽桧のしなやかな木目、曲線美を持っています。そんな曲物に「あかり」を照らせば、新しく、どこかなつかしい、暖かな照明が作れないかと思いました。薄さと滑らかな曲線を生かして、有機的なフォルムとし、ペンダント型照明としています。それは、木を吊るすということと「ミノムシ」のような形とリンクさせています。薄い木を通して光が篭れ、まるで生きているかのような生命力を感じさせます。また、一見複雑に見える形は、とても作りやすい形になっています。四角い一枚の木曽桧の薄板を下部のみを曲線にカットし、5回丸めているだけです。インテリアとしてどんな空間にも合うようにシンプルな形を追求してあります。伝統的な曲物の技術を抽出し、次代に継承することができる照明の提案です。


デザイン提案部門賞「うるし実」

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インデザイン 池内昭仁+石井保幸

小さい頃から自然素材に触れて遊び、物心がついた頃に伝統工芸の良さを知る。親からこどもへ、こどもから孫へ、代々使い続けられるおもちゃの提案です。がらがら・おきあがりこぼし・つみき、うるし実は三つのおもちゃが一つの実になっています。親子や兄弟、友達などみんなで楽しめます。親しみのあるどんぐりをイメージさせるデザイン。中にはつみきがしまってあります。三つのおもちゃが一つの実としてきれいにまとまることで、こどもが片付ける習慣を覚えます。


選考委員特別賞 鈴木進賞
「木曽漆器 転動体収納式シーソー型文鎮 TP-1」
(デザイン提案部門)

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磯村 孝幸(磯村製作所)

本製品は、乾電池等を収納して使用するシーソー型文鎮である。乾電池はケースに入って販売されないため、新旧・種類・銘柄等が混在、氾濫した状態で保管されている。また、乾電池は不燃物の有害ゴミで、廃棄されれば環境に悪影響を及ぼす。そこで、本製品に乾電池を整理、分別して収納し、文鎮として活用すれば、少なくとも廃棄しない限りは環境汚染の防止に貢献できるという、エコ文房具である。


選考委員特別賞 左合ひとみ賞「信州打刃物ポスター」
(デザインPR部門)

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轟 久志(トドロキデザイン)

450年の歴史を持つ信州打刃物。強靱でいつまでも切れ味が落ちず使い勝手がよいということで、特にこの産地の鎌は有名です。真っ白な紙にシャープな切れ目をつけ、立体的に「打刃」という文字を浮き上がらせることで、切れ味の良さを表現しました。「伝統工芸」という少し重く感じるテーマを、さり気なく現在に合ったデザイン表現になることを目指しました。


選考委員特別賞 内田和美賞「MINAMO」(デザイン提案部門)

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野坂 学(京都工芸繊維大学)

水を美しいと思える洗面台。大自然の水面に写り込む姿のように、自分の顔は透き通る水を通して見えてくる。それは自然の水面に写る自分の姿と重なる。無垢な円筒からつたい流れ落ちてくる水は、北アルプスの育んだ美しい水の流れを感じさせる。


学生特別賞

「ベロタクシー長野」
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小林 裕真(OKA学園トータルデザインアカデミー)

「プラレールで回る『NAGANO』」
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野竹 聡美(OKA学園トータルデザインアカデミー)


入選(デザイン提案部門)

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保科 好孝(Plant Plus design)

「笹屋印」
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なぁおやじ 中沢 定幸+アオキタカエ

「信州を詰め込んだ化粧ポーチ」
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三井 慧子(OKA学園トータルデザインアカデミー)

「内山紙パッケージ」
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轟 久志(トドロキデザイン)


入選(デザインPR部門)

「紬で名刺」
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勝俣 明子(ヒューマンアカデミー)

「内山紙英文ポスター」
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轟 久志(トドロキデザイン)

「信州伝統工芸花札シリーズ」
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轟 久志(トドロキデザイン)

「産みの親と育ての親」
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関谷 まゆみ(エイブルデザイン)

「内山和紙シリーズ」
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黒岩 咲子(ヒューマンアカデミー)


LIFE DESIGN 信州 2008 選考講評

信州の伝統工芸をテーマに全国から寄せられた55作品は、総じて期待に違わずレベルの高いものでした。この地に根付いて長く培われ、伝承されてきた巧みの技が、現代社会にも通じる魅力を内包していること、そしてそこにデザインという創造性が合わさると、その可能性が飛躍的に高められることが具体的に示されていました。今後の地域産業の再生にとって、やはり「前向きな創造性こそが何より尊い」ことを、改めて実感することができました。

それらの中から栄えあるグランプリを受賞したのは、相澤徳行さん(長野市)の「内山和紙のポスター」でした。和紙の本質をとらえ、素材感を活かしたデザイン表現には「伝えたい」というチカラがあります。見た瞬間に引き込まれるような世界観と存在感が抜群でした。表現手法も斬新で、和紙の新しい世界を広げる可能性を感じました。このポスターの持つ印象は、「内山和紙」固有のイメージとして見る者にインプットされることでしょう。思わず手を伸ばしたくなるようなビジュアルを超えたコミュニケーションを実現しており、PRや伝達の素材として、ポスター以外に形を変えて展開できる可能性を秘めています。紙漉きの伝統工芸とそれを育む雪をモチーフにした独創的で巧みな表現、それがものづくりの模様をも浮き出させる、大変深みのある作品です。

デザイン提案部門賞を受賞したのは、大塚亮さん(東京都)と池内昭仁さん(東京都)でした。大塚さんの「MiNo」は、木曽奈良井宿に伝わるヒノキやサワラの薄板を曲げ加工し、弁当箱や飯器等の日用品を作る「曲げ物」を応用した提案です。その制作性や実際そうになるかという再現性では検証を要する面もありますが、木目の美しさを伝承の技と光を組み合わて、今に求められる癒しへと誘うデザインは秀逸でした。

池内さんの「うるし実」は、木工や漆工を活かした玩具の提案です。漆については色彩など制作上の懸案がありますが、ガラガラ、おきあがりこぼし、積み木の要素を、開いても納めても使えるようにするアイデアには、効率の良いものづくりが得意な信州らしさも感じます。それを伝統の技でつくることで世代を超えた価値にもできるという提案は、「ものあまり」へ警鐘を鳴らすメッセージでもあります。

デザインPR部門賞は、残念ながら受賞該当作品がありませんでした。信州の伝統工芸の何を伝え、どのような反応を期待するのかといったコミュニケーション性を基軸にし、あまりこれまでの型にはまらず、もっと前向きな表現があれば良かったと思います。その点、今回のグランプリを追随するような作品の登場が望まれます。

鈴木進氏講評
伝統工芸を未来へと受け継いでいくために、リフレッシュした精神と視点で取り組む必要があります。美しさや使いやすさと共に、ビジネス視点から提案ができるデザインは、伝統工芸においても大きな役割を果すことができるでしょう。
提案部門は、地に足のついた現実的な視点の作品が多かったですね。もっと未来を想定した、楽しい驚きがあってもいいと思います。

PR部門では、今の生活者視点に立ったうえで、「伝統工芸を生活に取り入れること」の魅力をもっと伝えて欲しかったです。

審査員特別賞には、磯村孝幸さん(塩尻市)の「木曽漆器 転動体収納式シーソー型文鎮 TP-1」を選びました。無理のない自然な仕上がりで美しく、実用性もあり、新しい分野のアイデアとして評価できます。ピストルに弾を詰めるように入れられる電池にさりげない遊びがあり、男心がくすぐられました。

左合ひとみ氏講評
今回の作品は高く評価できるものが多く、信州のデザインのポテンシャルが感じられました。産業とデザインの結び付きを強くするには、もっと元気に、デザインからアプローチしていって欲しいですね。

伝統工芸に関しては、多くの人々、特に若者に理解してもらうような取り組みが必要です。知られていなくても、実は良いものはたくさんあります。大切なのは知ってもらえる工夫をすること。このコンペを通して、信州の活性化にもっと多くの人々が参加できるようになることを願っています。

審査員特別賞には、轟久志さん(長野市)の「信州打刃物ポスター」を選びました。非常にシャープなインパクトで迫ってきます。打刃物自体を見せるのではなく、「切られた側を見せる」という視点が新しいですね。見る者の感覚を刺激する、効果的なビジュアルになっています。

内田和美氏講評
伝統的な技術を現代の視点で取り入れた作品に出合うことができ、嬉しく思います。信州と伝統工芸というテーマにおいて、もっとドキッとするようなインパクトや気付きのある作品が、もっとあると良かったですね。

信州には素晴らしい伝統工芸があることが改めて判りましたが、これを活性化して行くにはより高いクリエイティビィティによって、現状を越えていかなければなりません。デザインによって、信州のクリエイティビィティを、どんどん広げて行ってください。

審査員特別賞には、野坂学さん(京都市)の「MINAMO」を選びました。手をあらうという所作で水に映った自分の顔を見るという、日常の何気ない行為によって身を凛と引き締めてくれるような新しい体験へと導かれれるデザインです。信州の伝統工芸との結び付きが無いのは残念ですが、空気感は伝わってくる作品です。

デジタルコンテンツ制作・企画など。