「信州ブランドアワード2009」選考結果

sba2009

昨年秋の「リーマン・ショック」から約1年、長野県の経済も未だ大きく落ち込んだままです。特に本県は、電気電子機器、精密機器、産業機械といった、輸出依存度が高く外的変動の影響を受け易い製造業が多いので、他の地方にも増して事態は深刻です。この行き詰まりをどう乗り越えるのか、当面の大きな懸案です。また、これまで中央主導で行ってきた全国均衡で画一的な産業振興も、いよいよ時代に沿わなくなりつつあります。今、中央と地方の関係が大きく見直されようとする中、各地方は個性や創造性を発揮して経済・社会の活力を引き出す、そんな自立性がこれまで以上に求められようとしています。

そこで我々は、“地域固有の資源を活かした、信州発のブランドづくり”を提唱してきました。信州発のブランドとは、当地固有の資源を基に生み出された、他にはない魅力のある商品やサービスであり、またそれを提供する事業や事業者であり、更にそれらの拠り所である地域そのものです。県下の企業、団体、自治体等の事業者が、事業に自らの旗印を掲げ、県の内外、そして海外からも支持を集める、すると県下にもっと直接的にヒトや外貨を呼び込めるようになります。そこにこれまでになく自立的で、外的変動にも左右されず安定して発展する郷土の姿が描けます。



 

「信州ブランドアワード」は、その原動力となる先進的で優れたブランドを選考・表彰するものです。ブランドは具体的な姿・形として認知できませんが、人々の価値観として確かに存在し、企業や地域の「無形資産」として注目されています。私達はそれらを、「志向性」「表現性」「情報伝達性」「地域性」「継続発展性」という“5つの指標”で捉え、2004年から毎年選考してきました。これまでの5回で選んだブランド数は延べ81にのぼりますが、改めてそれらを振り返ると、一つ一つが長野県産業の今の魅力を構成する要因として輝きを放ち、後に続くブランドの目標にもなっていることが判ります。このアワードが、先達を超えるようなブランドづくりの呼び水になり、県下に広がって持続的に定着するようになれば大変幸いです。

さて、本年の選考ですが、先ず公募と推薦で集まった36を候補として選考審議を重ね、12の候補に絞り込みました。その内、推薦の2つの事業者からは承諾が得られなかったため、「新鶴塩羊羹」「KURA」「高原社」「マスターマインド(Mastermind)」「井筒ワイン」「星のや 軽井沢」「通気断熱WB工法」「駒ヶ根ソースかつ丼」「クラフトフェアまつもと」「蓼科高原 バラクラ イングリッシュ ガーデン」の10ブランド(順不同)が、入選と決まりました。その中から、総合的に最も評価の高い1点を「大賞」、また特定の指標で評価が高く、大賞に準ずる若干点を「特別賞」、そして今回から新たに、選考全体を見渡して特に地域が一体となって取り組んでいる社会公益性の高い1点を、「長野県知事賞」とする各賞選考を行いました。

「大賞」に選ばれたのは、「新鶴塩羊羹」でした。これは、明治6年(1873年)諏訪大社秋宮脇に和菓子製造販売の「新鶴本店」を創業した折、初代が羊羹に塩味を加えることを発案し、苦心を重ねるうちに生まれたものです。以来諏訪大社の参拝客らの口伝えで評判になり、諏訪地方では「迷ったらこれにしておけ」とも伝えられる定番の名産品になっています。現在でも楢の薪を焚いて丹念に練り上げる手作り製法を忠実に守り、量産に走ることなく美味しさ第一の姿勢を崩さない「志向性」、地元茅野産の特注寒天を用いたり、信州-諏訪大社-塩羊羹という、地域との効果的なイメージ連鎖を作り出している「地域性」、また136年余に及ぶ「継続発展性」等で、総合的に最高の評価を得ました。

そして「特別賞」には、「星のや 軽井沢」「駒ヶ根ソースかつ丼」「蓼科高原 バラクラ イングリッシュ ガーデン」の3つが選ばれました。
「星のや 軽井沢」は“谷の集落”をコンセプトに、2005 年に「星野温泉ホテル」に替わって誕生しました。この土地独自の価値観、生態系、そして文化を守り、時代に合わせて近代化した上質な滞在型温泉旅館です。建築、環境、エネルギー、サービス等、全てに於いて独創性の高い「志向性」や「表現性」、軽井沢の豊かな自然との共生を重視する「継続発展性」で評価を得ましたが、開業して間もないという点で見解が分かれました。

「駒ヶ根ソースかつ丼」は、ご飯の上に千切りキャベツを敷き、そこに秘伝のソースをくぐらせたかつを乗せた丼料理で、昭和初期より駒ヶ根で提供されていました。これを現在に復刻させて街の名物にしようと、商工会議所が中心となって活動してきました。「ソースかつ丼」と名称を統一し、平成5年には「駒ヶ根ソースかつ丼会」を結成、現在は45店が参加しその普及に努めています。「駒ヶ根ソースかつ丼基準」を策定して独自性を確立しようとする「志向性」、B級グルメまちおこし団体連絡協議会「愛Bリーグ」に加盟し、全国に積極的なPRを行っている「情報伝達性」、地元事業者が結束し15年余にわたり活動を維持している「地域性」や「継続発展性」が、評価を得ました。

「蓼科高原 バラクラ イングリッシュ ガーデン」は、ヨーロッパで英国の庭の美しさに魅せられたケイ山田氏が、1990年に茅野市の蓼科高原に開園した、日本初の本格的英国式庭園です。約1万平方メートルのスケールに、本物を追求するため英国トップレベルの専門家を起用し、当初草花を英国から2,500本も移植しました。それらが美しく見事に成長し、今や世界的なイングリッシュガーデンの一つとして、権威ある英国の専門書にも紹介されています。地球環境を守ることや心の癒しを、美しい庭園を通じて提供しようという「志向性」、積極的なイベントづくりやPR活動で年間25万人余の入場者を集める「情報伝達性」、地元の観光や園芸産業の活性化に貢献しようとする「地域性」に、評価が集まりました。

そして初の「長野県知事賞」に選ばれたのは、選考委員全員一致で「クラフトフェアまつもと」でした。これは、木工をはじめ多くのクラフト作家が活動する松本で、海外のクラフトフェアを参考に屋外でのクラフトイベントが企画されたことに始まります。1985年“あがたの森”を会場に、45組65人が参加し第1回が開催されました。その後口コミで参加者が増え続け、今は千人を超える応募者の中から約260人が参加、2日間で5~6万人の来場者を集める全国規模のイベントに成長しました。当初は地元のクラフト作家のNPO法人が中心でしたが、徐々に多くの市民がファンとなって参加するようになり、また同時期に「工芸の5月」というイベントを共催する松本市とも一緒になって、皆で「工芸の街松本」というブランド価値を高めようとの地域ぐるみの取り組みになっています。その社会公益性の高さが、抜群の評価となりました。

全体の評価では、「志向性」「地域性」が高く、「表現性」「情報伝達性」が低い傾向が相変わらずです。そこにはブランドづくりに取り組む県下の事業者が、社会性や地域性のある事業を行うことを得意とする反面、「独自性」や「優位性」表現したり伝えるのは不得手で、「つくり上手で売り下手」な様子が顕著です。これまで有りがちだった技術や品質といったつくることのみに偏重するのでなく、売ることもしっかり見据えたバランスの良いマーケティングを行うことが特に必要と思います。それには、表現したり伝えたりするデザインのような専門性を積極的に活用し、地域ぐるみで「つくり上手で売り上手」になるような仕組みを整え、機能させて行くことが急務です。

なお、今回から設けられた「長野県知事賞」は、県デザイン振興協会が本年4 月に村井知事と面談した折、このアワードについて説明し、県も一緒に表彰していただくよう提案したことから実現しました。知事からはその趣旨や重要性に同意と賞賛をいただき、その場で賞を設けることが決まりました。「知事賞」設置は、特に地域一体となってブランドづくりに取り組む県内各地の事業者の活動の励みとなるのはもちろんですが、この事業を発展的に継続していく上で本アワード関係者にとっても大変喜ばしいことです。しかし、同時に身の引き締まることでもあり、今後は益々この事業が本県の産業や社会に有意義なものとなるように、襟を正して選考や周知に臨みたいと思います。

終わりに是非申し上げたいのは、毎年このアワードの開催を支えてくれている「ノミネート委員会」の皆様へのねぎらいです。この委員会は、県下の企業、NPO、自治体等のボランティアで編成されています。ボランティア活動は、災害復旧や教育、医療、福祉といった多様な分野で必要性が叫ばれていますが、何れにしても行うことの意義に共感し、志願していただく自発性が頼りです。このアワードも、「ノミネート委員会」各位のご尽力なくして立ち行きませんので、改めて心より感謝を申し上げる次第です。ただ、ボランティアには奉仕的な側面だけでなく、「先駆性」や「補完性」、「自己実現性」といったプラス面もあります。「先駆性」とは既存社会の先を行く役割を担うこと、「補完性」とは既存社会ではできないニーズに対応すること、そして「自己実現性」とはそれが参加者個人の自己実現の場になるということで、このアワードでもそれらは大いに当て嵌まります。不十分な推進体制や告知といったことも含め、付随する懸案の解決はもとより講じて行かなければなりません。しかし、気持ち次第で得るものも大きいことも認識いただき、本県産業の自立的な発展に貢献できるよう、引き続き誇りを持って前向きに持続いただくことを切に望みます。

2009年9月18日


 

信州ブランドアワード選考委員]順不同・敬称略
信州ブランドフォーラム開催実行委員長 深沢 賢一郎(選考委員長)
(社)長野県経営者協会専務理事 関 安雄
長野県企画部企画課課長 島田 伸之
長野県地域資源製品開発支援センター 総合プロデューサー 鈴木 進
(財)長野経済研究所調査部長 小澤 吉則
長野県デザイン振興協会常任理事 土屋 修三
国立大学法人信州大学人文学部教授 中嶋 聞多

デジタルコンテンツ制作・企画など。

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